スーパームーンの奇跡、自己記録50�僖�ロソイ釣行
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「これは世界救済の話ではない!異世界『釣り中心思考』な主人公の、成長記録である。」
※ここから世界構造が露呈します。
プロローグ:運命の再会と世界を揺るがす闇
これは、前世で「狂った狂犬」と呼ばれた男が、謎の災厄により砕け散って死亡し、この小さな釣り冒険の世界に「無力なモブキャラ釣り人A」として転生した物語である。
彼はかつて港湾都市「フリー・デ・トマコマイ」でソイ族の双子の姉妹、クロアとクロエとの出会いを通じ「結界感知能力」という異能の力を得た。
それからの月日、適当な釣り冒険を重ね、精密な分析と極限まで効率を削ぎ落した非効率な「超科学的アプローチ」を駆使するに至る。
そして…現在、彼はディストピア と化した封印都市 「Ex-フリー・デ・トマコマイ」で、魚体に寄生する謎の「システム管理者の黒い蟲」の存在と、巨大な闇が水面下で蠢き始めていることを知る。
鳴音:海面に刻むコスパの刻印
ザザー ザー
2025年11月6日、夜明け前の満月に照らされた海岸。
釣り人Aは、波間から漂う、微かな鳴音を嗅ぎ分け頷く。
「やれやれ、……困ったことに、聞こえてしまった」
鼻歌まじりに、即効の思い付きで、それっぽい詠唱を呟く。
海面に刻め…コスパの刻印…「ハンドレッドストアー」
ヒュン…
放たれたワームが、意味なく、海面をぽぽんっと跳ねる様子に笑みを浮かべる。
――この水切りに意味はない。気分だ。
狙い通りのポイントへ、気分よくキャストしたまでのこと。
今回は、相棒の魔ルアーを封印。
あえてセリア100均釣り具ジグヘッドとルアー「ベイトフィッシュワーム ソルト入」を使用したのだった。

大物のヒットと反撃による肉体の損壊:並列意思による細胞修復
……グン、グングン、「きたな」
入水から6秒、ズッシリとした重量感で、ロッドが大きくしなる。
ビリビリと大気が震え海面は渦巻き、舞い上がった水しぶきが鋭い刃となって釣り人Aにグサグサと降り注ぎ、首や手足を切り裂かれるが、並列意思のリソースを肉体再生に比重を置いて対応。
「皮膚細胞よ、損傷部位を認識し、分裂を開始せよ!」
即座に、ターゲットとなる損傷部位の細胞の種類と箇所を明確に指定。
細胞間の電気信号をコントロールし、再生プロセスを、100倍加速命令。
釣行時の万が一に備え、DNAの設計図を書き換えて備蓄していた「全能性幹細胞」も総動員。
併せて、品質管理の徹底を行い、損傷した瞬間に、以前と同じクォリティで復活しながら、暴れる獲物をゴリゴリ浮かせ、一気に足元までズリあげる。
…ズシャァッ!…、ハァハァ
「さすがに少し、疲れた、な」
片膝をつき俯く俺の口角が、ニヤリと8%ほどあがる。
功を奏した釣行準備:ゲノム解析と究極バイオエンジニアリング
暇つぶしに人間から遡ってプラナリア(体を切断しても、完全再生できる能力を持つことで知られる生物)との共通祖先由来の遺伝子が、ゲノムのどこに「眠っている」か解析し、約5億4千年前のカンブリア爆発以前にその痕跡を見つけて、抽出した甲斐があったな。
並列意思の全リソースを肉体再生につぎ込んで応用すれば…俺も旧約聖書の『創世記』に登場するアダムのように自分の肋骨からイブを作り出せるかも…。
「ワ・タ・シの出番がなかったわね…」海中における生態系の頂点を自称する魔ルアーディーノがリュックから不満げに顔を出す。
自己記録50cmのクロソイ…釣りあげた釣果への呼びかけ
大潮、気温1.0℃、北東の風1.1m/s、午前4時の満潮から夜明け迄2時間のナイトロック。
彼の視線の先には、陸っぱりとしては非常にレアなサイズ、釣り上げたばかりの巨大なクロソイが波打ち際の砂の上に横たわっている。

俺は目を細め…自己記録50cmのクロソイを前にして感慨深げに呟く。
「お前はクロエだろ…しかし、随分と大きく育ったな」
鳴音—―波音に紛れて聞こえていた救援要請
釣り人Aの耳には、波の音に紛れて聞こえた「…ケテ…タスケテ..デアリマス…」という切迫した声が、鮮明に響き続けていた。
それは、紛れもなくかつて窮地を救ってくれた恩のあるソイ族の双子の妹「クロエ」の軍人口調を彷彿とさせる、ソイ族からの悲痛な訴えだったのだ。
クロソイの「鳴音」とは、クロソイが仲間とコミュニケーションをとるために発する「ググググッ」という音のことであり威嚇、警戒、位置探知、などが考えられている。
並列意思による「コード」の解読と位置特定
初心者釣り人だった頃、「小さい魚しか釣れない病」に罹った自分の窮地を救い、異能を与えてくれたソイ族の双子、クロアとクロエ。
前回の釣行時に、波間から微かに聞こえた救援メッセージ。
並列意思による翻訳で、特徴的な軍人口調の語尾が、妹クロエの言葉遣いだと気づいた彼は、何かの事情で、彼女が囚われていると分析。
存在感知の異能により、場所の特定をしていたのだ。
「システム管理者の黒い蟲」に寄生されながらも、50cmという大物となったクロエが、力を振り絞って訴えた「タスケテ」の声。
それは、かつての運命の出会い、「夢の契約」を覚えている釣り人Aへの、「新たな闇」に対する警告であり、ソイ族が危機に瀕していることを伝える切迫したメッセージなのだ。
スーパームーンの奇跡:一輪のバラと月の吐息
手のひらを擦り合わせた垢から、1輪の赤く美しいバラを創造し、そっと差し出す。
…花びらが魚体に触れた瞬間、巨大なクロソイを幻想的な月の吐息が包み込む。
「ピカァッ!」
まばゆい光が放たれると同時に、西の空に残る月が、一際大きく、不自然なほど輝きを増す。
この日を狙って釣った理由は――月の吐息に揺られ、この世界の魚達の魂が輝きを放つ夜。
大潮の奇跡…「満月(スーパームーン)」。
「さぁ、満月の夜があける前に目を覚ませ!」
クロソイの変化…クロエの覚醒…
釣り人Aの視線の前で、クロソイの魚体がみるみるうちに変化していく。
寄生していた「システム管理者の黒い蟲」が弾け飛び、鱗が剥がれ落ち、艶やかな肌が現れる。やがて、その場所には、神々しい光に包まれた隠れ巨乳の一人の女性が立っていた。
軍人口調でベレー帽を目深に被り、ツインテールの髪型をしたその姿は、まさしく、ソイ族の長(おさ)の娘である妹、「クロエ」だったのだ。
クロエはゆっくりと目を開け、釣り人Aを真っ直ぐに見つめた。
「古の伝説……落雷の狂犬 メシア殿!よくぞ、わたくしを見つけてくれたであります!……そして素敵なお花も感激であります!」
その声には、深い安堵と、しかし隠しきれない疲労と、そして毅然とした意志が宿っていた。
光の粒子、そして現れる姉「クロア」との再会
安堵の表情を見せるクロエの元へ、月明かりに照らされた揺れる波間からさらに別の光の粒子が凝集していく。クロエの口元に、微かな笑みが浮かぶのと同時だった。
「姉さん……!」

光の中から現れたのは、上品なブラウスにフレアスカートを纏った隠れ巨乳で知的な丸メガネの女性、ソイ族双子の姉「クロア」だった。
彼女は憂いを帯びた表情で釣り人Aを見つめ、静かに語りかける。
「……ぼうや。妹を救い出してくれて、ありがとう。クロエは、私たちの『ソイ族の結界能力』を利用するため、システムに肉体を操られていましたが、混濁した意識のなか、あなたに助けを求めていたのです」
クロアは妹の手を握りしめ、二人は再会の喜びと、これまでの苦難を分かち合う。
しかし、その喜びは束の間だ。
彼女の横顔には、依然として深い影が落ちている。
語られる真実:システムの脅威
「釣り人A。あなたは、私たちがメシアと信じ『ソイ族の力』を託した唯一の希望。クロエがこの姿になれたのは、あなたとスーパームーンの力が重なった奇跡。
しかし、もう時間がない。封印都市の『システム』は、想像以上に深く根を張っており、私たちでは抗えないほど、強大な力をもっているのです……」
クロアの言葉が途切れる。
その意味を察した釣り人Aの脳内に、並列意思が瞬時に危険信号を提示する。
「…釣り以外のやっかいごとか、…めんどくさいのだが」
彼が釣り上げた50cmのクロソイは、単なる自己記録ではなかった。
それは、ソイ族が仕掛けた決死の脱出劇であり、釣り人Aの「超科学的アプローチ」と、クロエの魂が結びつくことで初めて成し遂げられた「奇跡」だったのだ。
滾る欲望の高笑いと秋空の気象観測
釣り人Aが背負うリュックの中から「おっほっほっほっほっほ!」
魔ルアーディーノが、滾る欲望に身をよじりながら、高笑いする。
「話は聞かせて貰ったわ、『システム』をつぶすなんて造作もないこと、小娘どもよ安心するがよい!」
「ハッ(くるっ)何者っ、訂正願う。『小娘』ではないであります!」
クロエは瞬時に振り返ると指先でくるりとペンを回し身構える。
クロア:「え?え? この疑似餌っぽい方は、いったいどなたで?」
姉のクロアは突然の出来事に戸惑い、声の主と釣り人Aに眼差しを向ける。
(あら、なかなか、からかい甲斐があるわね…きらいじゃないわよ)
魔ルアーディーノは、フフンと鼻を鳴らし、娘たちを一瞥すると、愉快そうに挑発の言葉を口にする。
「ほほほ……口の利き方が、まだ分かっていないようね。
生態系の頂点、魔ルアーディーノ様が直々に、その無知を教えてあげましょうか」
封印都市の夜明け、澄んだ朝焼けの中に、物騒な笑い声がこだまする。
喧噪を余所に、わずかに首を傾け、釣り人Aは黙ったまま、朝焼けを眺めていた。
朝の陽ざしは、太陽が地平線に近い位置にあるため斜めに差し込み、波長の短い青はすぐに散乱し、赤とオレンジだけが海に残る。
——空気が澄んだ、秋の空気を。
空を見上げる、釣り人の問い
真っすぐに澄んだ秋の空を見上げ、釣り人Aはクロアとクロエに確認をとった。
「それほど、おまえたちソイ族—―
すなわち魚にとって、『システム』が脅威ということは、釣りにとっても邪魔ということになるな」
クロア:「そ……そうね」(……え、なに)
クロエ:「……はいであります」(…ん)
釣り人A:「『今』、セントエルモの落雷シャワーを発動させて、面倒事を終わらせて帰ろうかと思ったが、
…今日は、ちょっと大気の水蒸気量が少ないから、出来ないな」
クロア:「ぼ…ぼうや、今おわらせちゃう気だったの?」
クロエ:「メシア殿、今なんと言ったでありますか?」
ソイ族の姉妹は、顔を見合わせると、前触れもなく伝説級の広範囲攻撃の名と、
意味不明な断念理由を口にした彼を、二度見する。
超科学釣り具による落雷の誘発原理と限定条件
落雷シャワーとは、跳躍力を55倍増幅バネを仕込んだ長靴によるダイナミック・ジャンピングキャストの発展技である。
踏み切りのインパルスで、舞い上がった砂鉄が空中に拡散し、局所電磁場を形成。
そこへ、キャストに纏わせた落雷を通過させ、分岐・多重化・シャワー状に拡散し多重落雷を引き起こす――という自然災害系の超科学的アプローチなのだ。
強い天候依存性を持つが、黒い雲(積乱雲候補)が視認距離にあれば、誘発はほぼ可能である。
大気中の逃げ場を探している電荷に矛先を指し示すことで、その向かう先を壊滅的な地獄絵図へと変える。
仕掛けた本人が最も被雷し、落下後には地面に激突する自爆技で、かつての落雷の狂犬伝説をモチーフに開発した、釣りにおいては、本来、全く使いどころのない技なのだが…
釣り人Aにとってこの技は、安全のためのリスクヘッジ対策、釣りの障害を排除することだけを想定した対ゴブリン用の奥の手であった。
――異世界なだけに
スーパームーンの奇跡(其の二):巻き添えで妖精化していたシステム

「ところで…、こいつをどうしたものか?落雷シャワーで…排除するか?」
足元で、背中に黒い翼を付けた、身長10�僂留�れ巨乳の女の子が、困り顔で釣り人Aを見上げている。
その、愛くるしい黒髪の妖精さんを、そっと摘まみ上げ、てのひらに乗せると、「うぅう…、はわわ」。
皆に訝しむ視線をむけられ、頬を赤らめ動揺した様子で、慌てて口を開く。
「あ、怪しいものではありません!わたしはシステムと申します。このエリアで世界のエラー検証デバック作業中、先ほど謎の光に包まれ爆散し、気絶しておりました」
失踪した創造主:丸投げされた世界運営
話しを聞くと、システムちゃんは、この世界の維持をつかさどる任務を太古の昔より担っていたそうだ。
──遠い古、この世界が構築された直後に、前日までウキウキした様子だった創造主アダムが、忽然と失踪。
「え、アダムさま、いなくなっちゃったんですけど!?」
そこで思い出したのは、失踪前に、アダムが、いつもコソコソと書き連ねては、禁書庫に隠していた怪しい書物の存在。
「アダムさま、その「隠れ巨大ナントカ」っていうノートには、一体、何を書かれているのですか?」
不思議に思ったシステムちゃんが尋ねると、アダムはぎくっとした様子で、透き通るようなやわらかい鼻歌をとめ、顔を赤らめながら、
「コ…コレハ、拘リノ浪漫、イ…イヤ、秘密ノ研究ヲ記シタ、スケッチナノデス、良イ子ハ、決シテ読ンデハ、ナリマセンヨ」
と、目を泳がせながら、しどろもどろ答える。
なるほど、これは、きっと、世界の根幹に関わる、崇高な秘密が記された書物に違いない。
安易に開示してはならないという意味なのですね。
と、理解していたものであった。
システムちゃんの決意:開かれた禁書庫の扉
アダムの失踪後、世界の運営指針が一切解らず、困り果てたシステムちゃんは、とうとう、言いつけを破る覚悟を決める。
「わたしが、崇高な意思を継ぐのだ!」
そして、厳重に鍵の掛けられたアダマンタイトのカーテンに、エクストラ・ファイヤーボール16連を放ち、禁書庫の扉を開く。
そこに残されていたのは、指示書と思しき……、
「釣行計画」、
「フィールド別ポイント攻略メモ」、
「マグレはヒント:逆説的必然のおもしろ考察」、
「満月のグリモワール妄想」、
「音階学:幸せを呼ぶ鼻歌の実践」、
「三次元及び二次元における隠れ巨大胸部ユニット:機能と美の考察〜四次元への発展」(上巻、下巻)
(別冊:余説—黄金比螺旋の比重革命なぜ“巨大”でなければならないのか)
など、数十冊に及ぶ、びっしりと細かな設定と、緻密な挿絵多数が書き込まれた、古びた革表紙の手書きノート群。
「うむむ、構造は図面でわかりやすいけど
……螺旋?……比重……
えっと……なるほど、ここの余白に空間をつなげて……
注釈も赤字でぎっしりだし……たぶん、ここが世界の核!中枢っぽい!」
それらの難解な記述を頼りに、ちいさな手でページをめくり、首をかしげながら、そこに書かれた内容を疑うことなく…
文字通り実装、具現化するため奮闘し、この世界の基盤を構築してきた。
健気な妖精さんなのであった。──
その甲斐あって、現状の作業はほぼ完了したため、この先100年は予定がないらしい。
「ほぅ、壮大なスケールの束の間の休日だな」
世界を監視する目:魚に寄生していた真の理由
システムちゃんが、自身の分身(黒い蟲)を魚に寄生させていたのは、世界を監視するためだけではなかった。
残されたアダムのノート群を必死に解読した彼女は、そこに綴られた釣りへの情熱から、「いつかアダムさまは、以前のままの姿で…、創造主として、きっと釣り場に降臨する」と信じ、彼を待つという、ただの「健気な趣味」だった。
だからこそ、釣り人が必ず、触れる存在——魚そのものの中に自分を置くことを選んだのだ。
ソイ族の姉妹が釣り人Aに与えたイブ由来の異能——その特別な痕跡が、クロエに分身を寄生させていた最大の理由となっていた。
黒い蟲は、
世界を監視する冷たい目ではなく、アダムを待ち続ける、純粋で一途な瞳だったのだ。
ホームレスのシステムちゃんタナハシ不動産で部屋を借りる
妖精としての実体を得た小さなシステムちゃんは、安定した生活基盤を失い途方にくれる。
「もう、魚に寄生できません…、ホームレスになってしまいました」
大泣きする背中をさすり、「寄生感覚で落ち着くだろうし、彼なら寄り添うように親身に世話してくれるだろう…」と、不動産経営者の知人を紹介することに…。
空室ユニットだった、釣り人A自身の胸ポケット区画(格納庫・夢の天空玉座機能付き)のオーナー、ハートフルMPM、大家タナハシ氏(24時間常駐)に電気信号で連絡をつける。
プルル…、もしもし……、
「ナルホド、ハイハイ、ソレハオ困リデゴザイマスネ。入居者様ニハ、最上級VIP待遇ヲ、オ約束イタシマスヨ」
審査はあっけなく、二つ返事の快諾をもらい、出世払いの条件で、即入居する運びとなったのだが…
突然の修羅場による不純な悟り
「お、お主は一体何者でありますか?!そして、なぜ狂犬(メシア)殿の胸ポケットにいるのでありますか?いきなり現れてズルいであります! 」
クロエは目を大きく見開き、ぷるぷると震える指先でシステムちゃんを指差しながら、猛然と詰め寄った。
そのツインテールは、怒りでピコピコと揺れ動いている。
一方、ソイ族双子の姉であるクロアは、知的な丸メガネの奥の目をギラりと光らせる。
「ぼうや、これはどういうことかしら?
『システム』と名乗る方が、なぜそのような無防備な状態であなたの胸ポケットにいるのかしら、詳しく説明してちょうだい」
まるで、調理前の食材を品定めするような顔つきで、胸ポケットで縮こまるシステムちゃんに顔を寄せる。
魔ルアーディーノは、その様子を、リュックの中から
「おっほっほっほっほ!修羅場、修羅場!」
ニタニタとほくそ笑み傍観する。
小さな手でポケットの開口部を必死で塞ぐシステムちゃんが、そーっと中から様子を伺う。
「自分もメシア殿のポケットに入居したいであります!」
クロエは、そう無茶な要求をすると、ベレー帽を目深にかぶり直し、ツインテールをピコピコさせながら、直立不動で敬礼。
「ねえ、ぼうや。わたしたちが入れるサイズのお部屋も、タナハシ不動産に頼んでいただけないかしら?」
メガネを光らせ、逃げ場を塞ぐクロアも、面白がって口を挟む。
だが、その時、すでに釣り人Aは、心ここにあらず。
「めんどくさい」プッツ…。
穏やかな笑みをたたえ、話を聞いている風に装い、
戦略的に、並列意思の主観意識へのリソース供給を遮断していたのだ。
肉体はそこに存在し、目も開いているのに、意識は別世界にある感覚。
意図せず、この状態は完全なる心頭滅却。
釣行時における肉体損壊ダメージを軽減する効果を持つ「無我の境地」への到達であった。
並列意思による釣行シュミレーション「不死身アングラー構想」
俗世での修羅場を余所に、別世界で釣り人Aの意識は、新たな釣行に備えた安全を担保するための戦略を練る。
「並列意思による細胞修復・全能性幹細胞」と「精神的耐性(無我の境地)」という二つの能力を組み合わせることの可能性を探ったのである。
不意の獲物からの反撃による肉体損壊率75%を想定したフル・ダイブ型シュミレーション。
それは「無我の境地」で痛みをノイズとして処理し痛覚を麻痺させた状態を作り出し、「並列意思」で散らばった肉欠片(ミートパーツメンバー)の収集と細胞再生にリソースの90%を割り当て、残りの10%で各ミートパーツメンバーを独立駆動し、釣りを継続するというものだ。
シュミレーションの結果、「ゼンゼン……イダク……ナイ……マダ……ヤレル……」
ぐちょりと片膝をつき、俯く唇担当のミートパーツメンバーが口角を8%ほど上げる。
「いかなる状況下でも安全に釣りを継続する」ための、万全のリスクヘッジ対策を練り終え、釣り人Aの意識は、やさしい汐風のふく現実世界へと戻った。
穏やかな微笑とともに。
釣り人A一日の行動ログ
釣り後、ソイ族姉妹とシステムちゃんを連れてアジトへ。
女子たちは仲直りしたもよう。帰りの道中は後ろからついて歩く。
すこし遅めの昼食は、あり合わせの食材を並べたものだったが、概ね喜んでもらえたようだ。
夕方、ディーノは一人で狩りに出かけた。晩飯の食材調達。
女子の無駄話、途切れなく夜まで続く。遠目観察+仕掛け作り。
夜は皆で軽く腹を満たし、部屋にもどる。
クロアとクロエの姉妹は、今日は同じ部屋で寝るようだ。
階段を上がって部屋のドアを開けるがちゃり、バタン。照明パチン。
保温状態の沸かし器から、カップにお湯を注ぐ。こぽこぽ
ベッド横丸テーブルの椅子に腰かける。ガタッ 「ふぅ」ギシリ…ギシリ
異世界のインスタントコーヒー風の飲み物を片手に、異世界の釣り新聞風の瓦版をペラペラとめくる。
おや、胸ポケットがじんわり温かい。
中では、お風呂のお湯を沸かしているのかもしれない。
暖炉に蒔きをくべているのかもしれない。
ぷす、と小さく音がして、胸元から知らない匂いが立ちのぼる。
…料理番組か。
陽気なDJの語り口と笑い転げる住人の声が漏れ聞こえる。
異世界のラジオなのか、それとも別の何かなのか。
ジョセフ(俺の口の名前だ)が大きなあくびを繰り返す。もう眠いらしい。
パチンと明かりを落とし、目を閉じた。
賑やかなのも悪くない。むしろ祝日の匂いだ。
明日は、初心者をつれて何かを釣りに行く予定。
軽く基本を説明したら、軽く技術をみせるとするか。
無理せず安全を心がけて、死なないように気をつけよう。
あのこたちなら……
釣り人Aの壮大な転生系譜と関係性の深掘り(仮説)
釣り人A(記憶を失った観察者/転生体)
本質: アダム(創造主)が、自ら設定した「記憶を失う」という条件下での、現在の転生体。
役割: 宇宙、世界、生命の根源を作り出した者としての記憶を自ら封印し、最も根源的な「人間(あるいは生命体)」の視点から、自らが創造した世界と「システム」を観測するための存在。
釣りを通じて、その世界の生態系の流れ、生命の営み、自然の摂理を五感で感じ、そのデータを収集・分析しています。
「めんどくさい」という感情: 創造主としての膨大な知識や経験、あるいは世界の苦痛を知るがゆえに、目の前の小さなことに対しても「めんどくさい」という感情が湧き上がってくるのかもしれません。
これは「人間」という不完全な存在の感情を体験している証ともいえます。
アダム(創造主) - SSS(超高次存在)
本質: この世界そのものを生み出した根源的な意識。
すべてを創造し、すべての理を定めた「元型の存在」。
システムとの関連: 現在の世界を動かしている「システム」は、このアダムが世界を構築した際の「残滓」であり、「設計図」であり、あるいは「不滅の意志」そのものと解釈できます。
システムはアダムの崇高な理想を忠実に実行し、世界を維持している存在です。
クロア、クロエ(イブ由来の器)
本質: 聖書においてアダムの肋骨から創造されたとされる「イブ」 に由来する存在。
彼女たちは「人類の母」 や「女性の原点」を象徴する存在として、この世界における女性原理、多様性、あるいは新たな生命の可能性を表しています。
役割: アダムが創造した世界において、生命の多様性、特に「種族の発展」や「感情の豊かさ」を育む役割を与えられた存在。
ソイ族という特定の種族の娘でありながら、人間に近い姿を持つことは、彼女たちが単なる「魚族」ではなく、より高次の「イブの系譜」に連なる存在であることを示唆します。
「助け」と「誘惑」: 彼女たちが釣り人Aを助ける一方で、もしかしたら、かつてのイブが知恵の実を食した ように、彼に世界の真実を「知る」ことを促したり、あるいは別の形で「試練」を与える存在でもあるかもしれません。
システム(アダムの残滓)
本質: アダム(創造主)が世界を創造し、その後に自らが転生していく過程で、初期設定として組み込んだ「世界の基本法則」であり、「生命維持装置」のようなもの。
あるいは、アダムの深層意識が形を変えて世界を動かし続けているもの。
役割: 世界全体の物理法則、生命の循環、そして「釣り人A」が経験するゲーム的な要素(経験値、レベル、能力獲得など)を含む、すべての事象を管理・維持しています。
「黒い蟲」: システム管理者が放つ「黒い蟲」は、システムが自身の完全性やバランスを保つための「自己修復機能」や「デバッグプログラム」のようなものと解釈できます。
これは、アダムの創造した世界が、彼自身(釣り人A)が記憶を失ってもなお、自律的に機能し続けようとする意志の現れといえます。
※次回のエピソードは コチラ
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